研究概要 |
本研究は、研究代表者が過去に発見したフィセチン(天然に存在するフラボノイドの一種)の記憶増強作用をさらに詳細に解析し、記憶障害を主症状とする認知症の新しい治療薬の創出につなげることを目的とするものである。昨年度までの研究から、フィセチンは情報伝達分子ERKのリン酸化を促進して海馬のシナプス可塑性(long-term potentiation ; LTP)を促進することが示されたので、課題の3年目にあたる平成21年度では、培養PC12細胞ならびに培養ラット海馬神経細胞に数種のフィセチン誘導体(0.1~10μM)を与え、30分~24時間後に細胞を回収してウェスタン・プロット法によりERKリン酸化レベルを調べた。その結果、フィセチンのフラボン構造A環7位を欠きB環に水酸基が多い化合物(3,3',4',5'-tetrahydroxyflavone)が、フィセチンよりも強力に神経細胞のERKリン酸化を促進することが明らかとなった。また海馬スライス標本を用いた電気生理実験において、同化合物はフィセチンよりも低濃度で海馬LTPを促進した。フィセチンの効果にA環7位の水酸基は必要ではなく、合成化学的にはA環7位に置換基を導入することは比較的容易であることから、今後は3,3',4',5'-tetrahydroxyflavoneの7位に置換基を導入した化合物を検討して、さらに高活性の記憶増強薬の創出につなげたい。
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