21世紀を迎え、我国の食生活や環境は欧米化というよりむしろ新たな独自性をもった日本スタイルを生み出していると考えられる。このような状況下で、本研究は脂肪細胞の分化・誘導に関して新しい観点から線溶系因子の関与ならびに発生学的に重要なプロトンポンプの意義について探求した。 1) ウロキナーゼ型プラスミン活性化因子受容体(uPAR) uPARは、細胞膜非貫通型の受容体として多様な細胞に発現している。脂肪細胞においても発現が確認されているが、これらの遺伝子を欠損したマウスにおいて内蔵脂肪の減弱化が確認された。本研究中、これらの分子生物学的機構の解明は達成されなかったが、同様に繊維芽細胞を用いた実験系で、uPARの欠損によって細胞の分化・誘導が抑制される事が明確になった。これらの分子機構としてあらたにメタロプロテアーゼを介する系が確認された。これらの機能の解明は今後細胞外組織の融解と脂肪細胞の肥大化・増殖のメカニズム解明に役立つものと考えられる。 2) α2アンチプラスミン(α2-AP) α2-APは、プラスミンの生体内特異的阻害因子である。今回の研究でこれらが自ら生理活性作用を示し細胞の分化・増殖に寄与することが解明された。これらの機構は、TGF-βを介するシグナリングを修飾することで、明確に細胞内情報伝達機構に影響を与えている。これらの結果は、α2-APが独立した因子として生体内で機能する可能性を示したもので今後の発展が期待される。 3) プロトンポンプ プロトンポンプは、従来、胃壁細胞において酸分泌機構を司る細胞膜機能である。近年、発生学的に重要な役割を担っていることが報告され、今回の研究に寄って細胞レベルでエネルギーに依存したプロトンポンプの機構が解明された。 これらの成果は今後の発展をもって様々な形で医療の発展に寄与できるものと考えられる。
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