マスト細胞は即時型アレルギー、寄生虫感染といった従来から知られている機能に加えて、最近では免疫寛容や細菌感染といったより広い範囲において調節的な役割を果たすことが報告されている。マスト細胞は造血幹細胞に由来するが、循環血中にはマスト細胞の性質をもつ細胞は存在せず、組織における最終分化によりその性質が決定される。一方で、申請者はIgEがその高親和性受容体FcεRIに結合するステップにおいてマスト細胞が活性化するという「単量体IgE」応答を見いだしている。そこで本研究では、マスト細胞の最終分化過程においてIgEがどのような役割を果たすかについて検討を行っている。当該年度の成果は以下の通りである。 1.マスト細胞の成熟に伴い誘導されるヒアルロン酸受容体CD44は、最終分化過程におけるマスト細胞の増殖を促進する働きをもつこと、またCD44遺伝子欠損マウスでは皮膚や腹腔のマスト細胞数が有意に減少することを見いだした。 2.IL-3依存性の初代培養マスト細胞において、IgEを共存させることによりFcεRIの顕著な発現誘導が起こることを明らかにした。 3.単量体IgE応答を強く惹起するIgEクローンとそうでないクローンを比較すると、前者では感作後の脱顆粒応答が減弱することを見いだした。 1.は皮膚におけるマスト細胞数の調節とヒアルロン酸量との関連性を示唆するものであり、興味深い。2.および3.は、単量体IgE応答の影響を長期的に評価しており、高IgE血症における病態形成を考察する上で有用な基礎的知見である。
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