昨年度にパイロット合成したRGD-ボロンクラスタ結合誘導体のスケールアップ合成を実施した。それらについて、下記に示す方法で体内動態分析を行ったところ、腹腔内注射では腫瘍内濃度にばらつきがみられ、不十分であった。そこでその結果をふまえて新たな分子設計と合成を行った。すなわち昨年度に最適化した合成ルートによって固相合成した環状RGDペプチドに種々のリンカーを介して、<10>^B含有ボロンクラスタとしてBSH及びカルボランを結合させた種々の誘導体を合成した。得られた候補化合物はESI/MS及び、各種スペクトル測定によって同定した。また、疎水性パラメータの測定、各種がん細胞に対する細胞毒性試験を実施したところ、いずれの化合物においても細胞毒性は低いものであった。次いで、候補化合物を担がんマウスに投与して経時的に採取した組織を抽出して、ICP発光分析によってボロン濃度を測定し体内動態の解析を行った。結果、カルボランに環状RGDペプチド基を2つ導入した誘導体GPU-201において、0.075μmol/kgを静脈注射した時、BSHと同等またはそれ以上の腫瘍内濃度と腫瘍滞留時間が認められた。さらに腹腔内投与に於いては10%HP-β-cycl odextrinを添加した場合、用量依存的に腫瘍内取り込みの向上が認められた。血液/腫瘍内濃度比もBSHよりも優れていたことから、本化合物は新規な能動的標的指向ボロンキャリアとして有望と考えられた。現在、担がんマウスによる中性子捕捉療法実験とインテグリン受容体親和性試験を行っている。
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