研究概要 |
軸不斉を有する生物活性物質の報告自体多くはないが、さらに立体配座の変化により生じるキラリティー(動的キラリティー)が生物活性に及ぼす影響に関する研究は限られている。本研究ではそれらについて、創薬シード創出のために検討している。 本年度は、 H19年度に継続して、アルツハイマー病治療薬として期待されるγ-セクレターゼ阻害薬(LY-411575:Lilly社)の立体化学構造および化学反応性について検討した。その結果、ジベンゾアゼピン骨格の立体化学、熱力学的安定性など基礎的な性質を明らかにするとともに、生物活性の発現に寄与する立体化学(軸不斉構造)を明らかにした。この知見をもとにして、類縁した骨格を有する新たな化合物合成へ展開し、それらの化学的な性質を明らかにした。また、すでに公表されている中枢神経系抑制作用を有する1,4-ベンゾジアゼピン誘導体についても、キラルカラムを用いたHPLCによる分析により、生物活性の異なる軸不斉構造が存在することをはじめて明らかにした。さらに、1,5-ベンゾジアゼピン-2-オン骨格など、種々の生物活性化合物の基本母核となることが期待される骨格化合物について、合成、立体化学、物理化学的性質、化学反応性などの詳細な検討を行った。その結果、核磁気共鳴スペクトル解析やX線構造解析などの結果により、従来注目されていなかった軸不斉構造の存在を明確に示すことができた。 以上の成果をもとに、医薬品シードの創製へ向けて合成化学的な研究をさらに展開している。
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