研究概要 |
本研究では、種々の内的、および外的要因によって引き起こされる生体の酸化的障害を、予防または回復させる化合物の探索・開発をおこなっている。 本年度は、これまでに抗酸化剤として知られているポリフェノールである、レスベラトロールの抗酸化能の増強と毒性の軽減のため構造変換を行い、その抗酸化能と毒性に及ぼす影響を調べた。特に芳香環に電子供与性基であるメチル基を導入してその効果を調べた。メチル基を3個導入した3',4,5'-トリメチルレスベラトロールのガルビノキシル(galvinoxyl)ラジカルに対する消去速度は、レスベラトロールの約60倍速かった。また遺伝子毒性(genotoxicity)として、染色体異常をチャイニーズハムスター培養細胞を用いて行った(濃度20μg/ml、48時間処理)。レスベラトロールそのものでは約50%の染色体異常が見られるが、3',4,5'-トリメチル体では数パーセントと激減し、メチル基の導入は、抗酸化能を増強する作用と、毒性の軽減に寄与することが判明した。また高線量放射線を被ばくした後、障害を回復させる化合物の報告は少なく、そのような化合物の探索を行った。亜鉛含有する熱処理酵母が、致死量の被ばく後に投与して有効であることを報告しているが、マンガン、銅のような金属を含有する熱処理酵母や、α-およびγ-トコフェロール、またはα-およびγ-トコトリエノールのN,N-ジメチルグリシンエステル塩酸塩が照射後投与で有効であった。照射直後(X線7.5Cy)のマウスにCu酵母、Mn酵母、α-トコフェロールN,N-ジメチルグリシンエステル塩酸塩、γ-トコトリエノールN,N-ジメチルグリシンエステル塩酸塩(100mg/Kg)投与後の30日生存率はそれぞれ91、81、95、85%であった。Zn含有酵母の放射線防護作用(骨髄死に対する防護作用)の機構解明のため、骨髄における遺伝子発現プロファイルを解析した結果、骨髄細胞に対する直接的防護作用より、骨髄における血管系の保護、抗炎症作用が関与していることが示された。
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