環境汚染物質であり内分泌撹乱作用を有す多環芳香族炭化水素(PAH)やダイオシキンは、アリル炭化水素受容体(AhR)に結合し、AhR応答領域(XRE)を介してCYP1A1等の発現誘導を引き起こす。また、アンドロゲンはアンドロゲン受容体(AR)に結合しAR応答領域を介して転写活性化を引き起こす。近年、ヒトの精子産生能や精子の質が低下していることを指摘する報告があるなど、内分泌撹乱物質と男性ホルモンのクロストークによる影響が懸念されるが、この方面の研究は未だ極めて少ない。そこで本研究では、内分泌撹乱物質と男性ホルモンのクロストークを理解する上で重要である、PAH(3MC)により誘導されたCYPIA1遺伝子の発現に対するアンドロゲン(DHT)の効果とその作用機構について検討した。まず、ヒト由来AR発現癌細胞LNCaPを3MCまたはDHTでそれぞれ処理し、誘導されるCYPIA1遺伝子の発現をreal-timePCR法で、また細胞に導入した3MC応答ルシフェラーゼ発現プラスミドpGL3-XRE×3の活性をルシフェラーゼレポーターアッセイ法で測定した。また、3MC、DHT共処理時のAhRとARのタンパク・タンパク相互作用を免疫沈降法により評価した。結果として、まずReal-timePCR法において、3-MC処理によりCYP1A1発現の誘導が観察され、この誘導はDHTによって抑制された。また、レポーターアッセイ系でも3MC処理によりルシフェラーゼ活性の上昇が観察され、この上昇はDHTにより抑制された。また、免疫沈降法の結果から、AhRとARが複合体を形成することが明らかになった。以上のことより、3MCによるCYP1A1遺伝子の誘導発現に対するアンドロゲンの抑制作用は、ARが転写調節領域に直接相互作用するのではなく、AhRとのタンパク・タンパク相互作用を介したものであると考えられた。
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