皮膚における機能解析:AhRはマウス皮膚の化学発癌に不可欠な因子である。AhRが皮膚組織の中でどのような役割をもつのかを知るために、転写因子であるAhRの標的遺伝子を調べたところ、転写抑制因子Blimp1が新規の標的遺伝子である事を見出し、既知の標的遺伝子CYP1A1と発現様式を比較した。表皮角化細胞または脂腺細胞株では、これら2つの標的遺伝子の共通の性質として、外来性の化学物質(リガンド)や紫外線照射により活性化されること、またAhRとその複合体形成のパートナーであるARNTの両者に依存して発現が上昇する事がわかった。一方、シグナル伝達に重要なリン酸化酵素の阻害剤(staurosporine)は、CYP1A1には影響しなかったがBlimp1誘導を抑制し、両者は異なる経路で活性化されることが示唆された。Blimp1は皮膚の分化を促し、また癌抑制遺伝子であるp53の発現を抑える事が報告されている。AhRはこれら作用の上流にあり、皮膚組織の形成や維持に機能している可能性がある。 腸上皮細胞における機能解析:AhRノックアウトマウスは盲腸に癌を作る。腸上皮は幹細胞システムから成る組織であり、幹細胞制御におけるAhRの関与を検討するために、腸上皮幹細胞の培養系を確立する目的で、腸上皮細胞の初代培養をおこなった。妊娠後期-出産直後のマウス腸組織を酵素的に解離して得た細胞を非接着性の培養器で培養した。3-4日後には直径0.1-0.2mmの細胞塊が得られ、これは外側にE-cadherinを発現する細胞、内側に発現しない細胞から成る二重構造をとっていた。この細胞塊は、CD133やLgr5等の幹細胞マーカーを発現することがわかった。この培養系はAhRノックアウトによる発癌の機序を調べる上で有用な方法と考えられる。
|