研究概要 |
当初計画に従い,1 CYP3A4による薬物酸化機構-分子力場計算による検討,2 CYP3A4による薬物酸化機構-量子化学計算による検討を行った。1 については,まず,CYP3A4のX線結晶解析データ(PDBコード1TQN)を用い,酵素活性部位を精査した。その結果,304位のフェニルアラニン(Phe304)と305位のアラニン(Ala305)が薬物(カルバマゼピン(CBZ))を保持する役目を果たすのではないかと推定された。このことと,CBZが酸化を受ける部位(10,11位がエポキシ化される)を考慮して,活性部位にCBZを配置し,分子力場計算によりエネルギー極小化を行った。その結果,Phe304がCBZを保持し,基質に対し酸化を行う活性種(Compound I)の酸素原子はCBZの10,11位と相互作用していた。すなわち,CYP3A4がCBZに対し,エポキシ化を実行するための構造が得られた。2については,1 の結果を基に,Phe304,Ala305,Compound Iが結合した442位のシステインおよびCBZを抜き出して,計算のためのモデルを作成した。これを用い,密度汎関数法により,CBZに対する酸化反応の機構を求めた。反応はCompound Iの酸素原子が逐次的にCBZの10位,11位と結合する2段階反応で進行し,その途中でスピン二重項状態とスピン四重項状態間の交叉が生じることがわかった。反応の律速段階(最初の段階)における活性化エネルギーはB3LYP/6-31G**レベルで21.3kcal/molであった。また,反応中,CBZはPhe304により保持されていた。なお,今年度の成果の一部をまとめた論文がBioorg.Med.Chem.に受理された(次年度に掲載予定)。
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