エベロリムスはmTOR活性阻害を介して細胞増殖を抑制することから、移植後の免疫抑制剤や抗腫瘍剤として臨床使用が期待されている。エベロリムス経口投与後のバイオアベイラビリティは低く、薬物代謝酵素CYP3AやP-糖蛋白質を介して初回通過効果を受けることが示唆されている。また、エベロリムス血中濃度はCYP3AやP-糖蛋白質の阻害剤であるイトラコナゾールの併用によって上昇することが知られているが、両薬剤の投与経路と相互作用との関連については明らかではない。そこで、エベロリムスの小腸及び肝抽出におけるイトラコナゾールの影響について、ラットを用いて定量的な解析を行った。その結果、イトラコナゾールとエベロリムスを共に小腸内投与した場合、エベロリムスのAUCは約5倍に上昇した。一方、イトラコナゾールを静脈内に投与し、エベロリムスを小腸内あるいは静脈内に投与した場合には、エベロリムスAUCの上昇は2倍程度であった。イトラコナゾール非併用時における小腸内投与時のエベロリムスのバイオアベイラビリティは約20%、肝抽出率は約13%、見かけの小腸抽出率は約80%と算出された。従って、イトラコナゾールはエベロリムスの小腸及び肝抽出率をいずれも阻害するが、エベロリムスのバイオアベイラビリティの上昇は主として小腸抽出率の低下に起因することが判明した。さらに、免疫抑制療法としてエベロリムスと併用される可能性のあるカルシニューリン阻害剤の影響について検討した。その結果、臨床で用いられる血中濃度域では、タクロリムスはエベロリムスの体内動態にほとんど影響を与えないものの、小腸内に投与したシクロスポリンは、小腸内に投与したエベロリムスの血中濃度を有意に上昇させた。一方、静脈内及び門脈内投与後のエベロリムス血中濃度にはほとんど影響しなかったことから、相互作用部位として小腸の寄与が大きいことが示唆された。
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