臓器移植後の免疫抑制療法は移植成績を向上させる上で極めて重要で、免疫抑制療法の中心として、タクロリムスあるいはシクロスポリンといったカルシニューリン阻害剤が薬物血中濃度モニタリング(TDM)に基づき厳密に使用されている。また、カルシニューリン阻害剤では拒絶反応がコントロールできない症例や、カルシニューリン阻害剤の副作用が問題となるケースもあることから、新たな作用機序をもつ免疫抑制剤としてmTOR阻害剤であるシロリムスやエベロリムス使用への期待が高まっている。これらmTOR阻害剤もまた薬物血中濃度の治療域が狭く、併用されるカルシニューリン阻害剤との相互作用が問題となるが詳細については不明である。本研究では、膵島移植患者2名を対象にシロリムスからエベロリムスへの切り替えを行い、体内動態解析を行った。その結果、同一血中濃度に維持するためには、シロリムスに比べてエベロリムスでは約3倍の投与量を必要とした。mTOR阻害薬はシクロスポリンと併用される場合が多いが、膵島移植時に用いられるエドモントンプロトコールではタクロリムスと併用される。タクロリムスと比較しシクロスポリン併用時には、mTOR阻害薬の血中濃度が上昇することが知られている。エベロリムスの方がシロリムスよりもシクロスポリンとの相互作用を受けやすいため、タクロリムス併用時にはエベロリムスの投与量を多く必要とすることが示唆された。また、蛍光偏向免疫法で測定したエベロリムス血中濃度は、LC/MS測定法で測定した場合に比べて高値を示し、エベロリムス蛍光偏向免疫法で用いる抗体は、シロリムスと47%の交差性を示すことが明らかとなった。これらの知見は、移植患者においてmTOR阻害剤をシロリムスからエベロリムスへ切り替える際の有用な知見になると考える。
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