【研究目的】トリプシン様セリン蛋白分解酵素阻害剤であるメシル酸ガベキサートは、副作用として投与部位の血管痛や、刺入した血管に沿った静脈炎、潰瘍や壊死などの重篤な血管障害をきたすことがあり、臨床上大きな問題となっている。昨年度の研究により、メシル酸ガベキサートは培養ブタ大動脈血管内皮細胞(PAEC)に対して、細胞膜を直接的に障害し、ネクローシスを引き起こすことが明らかとなった。そこで本研究では、メシル酸ガベキサートによる血管内皮細胞障害の予防や治療策の確立を目指して、保護薬物の探索を行った。 【研究方法】メシル酸ガベキサートをPAECに曝露し、細胞生存率の変化をWST-8法により測定した。細胞膜の障害は、細胞内へのPI(propidium iodine)の取り込みを指標として評価した。トリプシン酵素活性は、ウシ膵臓由来トリプシンの、合成基質Boc-Phe-Ser-Arg-AMC分解能を指標とした。 【研究成果】メシル酸ガベキサート曝露によりPAECに惹起された細胞障害は、グリシン(30mM)やL-システイン(1.0mM)、L-リシン(30mM)の前処置により、ほぼ完全に抑制された。一方で、グリシンは、メシル酸ガベキサートの主作用であるトリプシン活性阻害効果に影響しなかった。しかしながら、メシル酸ガベキサート処置から6時間以降にグリシンを添加した場合においては、その保護効果は消失した。 以上の結果から、メシル酸ガベキサートによる血管内皮細胞の障害に対して、グリシン等の一部のアミノ酸が保護作用を示すことが明らかとなった。グリシンは、メシル酸ガベキサートの主作用であるトリプシン活性阻害作用に影響しなかったが、障害惹起後にグリシンを処置した場合には、その保護作用は消失したことから、臨床においては治療的ではなく、予防的に使用する必要性が考えられた。
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