研究代表者は、抗うつ薬の血液脳関門での薬物代謝の回避が、抗うつ薬の遅効性の改善につながるものと考え、ラット脳毛細血管内皮の培養細胞を用いた薬物代謝実験を計画し、次のような結果を得た。 イミプラミンおよびその代謝物(2-Hydroxy Imipramine、Desipramine、Imipramine N-Oxide、2-Hydroxy Desipramine、酸化的脱アミノ化体)のHPLCによる一斉分析の方法を開発することができた。この方法を用い、ラット脳毛細血管内皮細胞における薬物代謝酵素の活性値を測定した結果、ラット脳毛細血管内皮細胞に薬物代謝酵素であるチトクロームP450(CYP)とフラビン含有モノオキシゲナーゼ(FMO)の存在することがわかった。特に、FMOに触媒されるイミプラミンのN-酸化の活性値は肝細胞における活性値とほぼ同じ値を示し、血液脳関門の代謝能力が肝に匹敵する能力を備えていることがわかった。さらに、血液脳関門を形成するもう1つの構成細胞であるアストロサイトにおける薬物代謝実験を行った。その結果、イミプラミンのデシプラミンへの代謝が認められ、アストロサイトにも抗うつ薬を代謝する能力を有することがわかった。一方、免疫蛍光染色法により、ラット脳毛細血管内皮細胞にCYP2C11とCYP3A2のタンパク質発現が観察された。それら遺伝子発現に関しては現在遂行中である。 以上、血液脳関門は従来から知られているトランスポーターによる脳への輸送系を制御するだけではなく、薬物代謝酵素による酵素的制御機構も備えていることが示唆された。これら研究成果は、うつ病に対する新たな薬物療法を見出すことが可能になると考える。
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