ストレスによる下部消化管知覚神経過敏反応は、熱刺激受容体TRPV1の発現量あるいは機能が増大しているのではないかという作業仮説を立て、これを検証するために研究を進めた。本年度は、正常動物のTRPV1発現神経における含有神経伝達物質の解明について検討を行った。さらに、ストレス負荷動物群による消化管TRPV1の機能変化について検討を行った。その研究結果の要点を以下の3点にまとめた 1.正常マウスの摘出下部消化管標本を用いマグヌス装置にて平滑筋収縮性を検討したところ、カプサイシン投与により一過相と持続相の二相からなる平滑筋収縮が観察された。これらの収縮は神経原性で、タキキニンが介在していることが見出されたが、特に持続性収縮にはニューロキニンAが大きく関与していることが判明した。 2.正常マウスの結腸、直腸凍結切片において、免疫組織化学的手法を用いてTRPV1神経に含有される神経伝達物質の検討を行った。その結果、筋間神経叢に密に観察されたTRPV1神経線維のすべてには、知覚神経系神経ペプチドであるカルシトニン遺伝子関連ペプチド、サブスタンスP、ニューロキニンAが含有されていることが明らかとなった。1の結果と考え合わせると、このTRPV1神経が消化管運動性に影響を及ぼしているものと推察された。 3.マウスに母子分離ストレス負荷し下部消化管を摘出してマグヌス実験を行ったところ、近位および横行結腸標本では正常マウス群と比較して平滑筋収縮反応に大きな変化が認められなかったが、遠位結腸と直腸においては一過性収縮反応の増強が観察された。したがって、下部消化管の肛門側ではストレス負荷によってTRPV1の感受性が増大していることが示唆され、これが過敏性腸症候群の知覚過敏性反応に関連していると考えている。
|