本課題は、がん細胞をターゲットとするのではなく、がん組織部位の血管内皮細胞をターゲットとするがん免疫療法である。In vitro条件下でがん組織部位の血管内皮細胞を樹状細胞にパルスし、それをin vivoに戻すものである。この方法により、腫瘍組織部位の血管内皮細胞に対する免疫が誘導され、腫瘍組織の血管が破綻し、腫瘍はその栄養供給のパイプを絶たれるため、いわゆる「兵糧責め」によるがんの退縮が期待される。本方法はがん細胞そのものを標的とするより1)効率が良い、2)副作用が低い、3)免疫細胞に移行障壁が無いなどの利点を有していることが期待され、その有用性を明らかとする。 本年度は、抗原となる腫瘍組織の血管内皮細胞単離法の確立を行った。検討の結果、腫瘍組織をコラゲナーゼで処理後、 Percoll密度勾配法により、フラクションに分離し、アンジオテンシン変換酵素活性、CD34を指標に血管内皮細胞を多く含むフラクションの単離に成功した。さらにこの血管内皮細胞を多く含むフラクションを抗原として、樹状細胞にパルスしたものを担がんマウスに免疫したところ、顕著な抗腫瘍効果が観察された。この抗腫瘍効果は、がん細胞そのものを抗原としたものより強く、本療法の優位性を示すことができた。作用機序を検討したところ、腫瘍誘導の血管新生が阻害されていることが判明した。さらに副作用として、正常な血管新生を阻害するか否か、創傷治癒に及ぼす影響を検討したが、本療法はなんら創傷治癒に影響を与えなかった。 以上の結果から、腫瘍組織からの血管内皮細胞単離およびその抗腫瘍効果を明らかにすることができ、今後、脳腫瘍での詳細な検討を行う予定である。
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