研究概要 |
薬物動態の個入差を引き起こす原因の一つとして,主要な薬物代謝酵素であるチトクロムP450(CYP)の質と量の変化が関与すると考えられている。CYPの変動要因として薬物,病態,加齢などが挙げられ,これらの要因の中には生体内において腸内細菌叢を変動させるものがあること,また腸内細菌叢に個人差が大きいことが知られている。本研究では,腸内細菌が存在しないGerm Free(GF)マウスと通常のSpecific Pathogen Free(SPF)マウスを用いて,肝臓における各種CYP分子種のmRNAレベルでの発現をリアルタイムRT-PCRにより検討した。また,最も多くの薬物の代謝に関与するCYPサブファミリーであるCyp3aについては,タンパク質レベルでの発現量をウェスタンブロット法により比較検討した。その結果,薬物代謝に重要なCyp1から4ファミリーに属するCYP分子種の内,12種の分子種のmRNA発現量はGFマウスと比較しSPFマウスの方が高く,2種の分子種についてはSPFマウスの方が発現が低:かった。また,Cyp3aタンパク質の発現量はSPFマウスの方が有意に高い値を示し,mRNAレベルでの結果と一致した。本研究の結果より,腸内細菌がCYPの発現に影響を及ぼしていることが示唆された。したがって,腸内細菌叢の変動が,CYP発現量や薬物動態の個人差の一因となっている可能性が考えられる。
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