正常な精子形成の進行には、造精細胞とセルトリ細胞間で機能する細胞接着分子が必須である。申請者らが発見した細胞接着分子Cell adhesion molecule-1(Cadm1)は造精細胞に発現し、セルトリ細胞に発現するNecl-5と相互作用する。Cadm1のノックアウト(KO)マウスは、造精細胞がセルトリ細胞から脱落して精子形成障害を生じる。また、このKOマウスでは、セルトリ細胞の細胞質内に多数の小胞が見られ、セルトリ細胞の機能にも異常が生じていることが推定された。造精細胞に発現するCadm1は、セルトリ細胞に発現するPoliovirus receptor(PVR)と相互作用する。PVRのKOマウスは、神戸大学の高井義美博士らにより報告されていたので、共同研究によりPVRのKOマウスの供与を受け、このマウスの精巣における精子形成について解析をした。PVRのKOマウスは雄性不妊を生じなかった。これは、精子形成障害を生じる造精細胞に発現するJunctional adhesion molecule-C(Jam-C)のKOマウスに対して、セルトリ細胞に発現しJam-Cと相互作用するJam-Bが精子形成障害を示さないことと同様である。本研究により、造精細胞とセルトリ細胞間の細胞接着分子による相互作用において、造精細胞に発現する分子の機能異常により、精子形成障害が起こりやすいことが明らかになった。また、PVRのKOマウスのセルトリ細胞には、Cadm1のKOマウスと同様のセルトリ細胞の異常が認められた。したがって、セルトリ細胞に異常が見られるが精子形成障害を起こすには至らない障害であることが分かった。
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