精子形成・成熟には生殖細胞自身の遺伝子発現と精巣・精巣上体における生殖細胞・周囲環境の相互作用とが重要と考えられる。この機構を明らかにするために、細胞膜や細胞内オルガネラに存在し、水や小分子の吸収排出に関与する水チャネル・アクアポリン分子に着目した。本年度はアクアポリン11(以下、AQP11)のタンパクレベルでの局在を調べ、さらに標的遺伝子組み替え法を用いて作成されたAQP11ノックアウトマウス精巣について細胞組織レベルで解析した。 1.AQP11タンパク質の局在解析:マウスAQP11のアミノ酸配列の両末端に対応するペプチドに対する抗ウサギポリクローナル抗体を作製したところ、各末端側を認識する合計4種類の特異抗体を得ることができた。これらの抗体を用いてAQP11タンパク質の局在を免疫組織学的に調べた結果、AQP11は生後2週目以降の精巣で発現がみられ、とくに後期精母細胞と円形精子細胞の細胞質に強く発現・局在していた。 2.AQP11ノックアウトマウス精巣の形態学的解析:光学顕微鏡を用いてAQP11ノックアウトマウス精巣を調べたところ、精母細胞や円形精子細胞に核濃縮した丸い細胞が多数観察された。これらについて電子顕微鏡を用いて観察した結果、細胞の縮小と核クロマチンの濃縮・断片化、それに続くセルトリ細胞による貪食像が観察され、典型的な生殖細胞のアポトーシス像を示した。 以上の所見から、AQP11タンパク質は精母細胞および精子細胞の細胞質に局在し、その欠損は精子形成細胞のアポトーシスに関与することが推察された。
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