研究概要 |
目的:胎生10週頃のヒト胎児の鼓室(中耳)は間葉で満たされているが、成長と共に内胚葉の第一咽頭嚢由来の嚢(pouch, saccus)の耳管からの侵入により間葉が融解し鼓室腔が形成、嚢同志が接触した境界領域に粘膜ヒダが形成されると言われてきた。粘膜ヒダは耳小骨の筋、血管、神経などを包む他、感染波及を防止するなどの合目的性を持っており、解剖学的及び臨床的にも意義深い。中耳腔の形成に関する我々の予備研究からは、耳管方向のみならず鼓膜内面からの融解も起きていることが示唆されており、その点を明確にすることが本研究の目的である。2.方法:平成20年度の研究計画に従い、μ-CTによりヒト胎児液浸標本の頭頚部の連続断層撮影を行った(推定13週から20週)。その連続断層像の閾値処理を行い、錐体の中耳および耳管〜咽頭の間葉とその融解部分(腔)の同定を行った。立体画像再構築(ボリウムレンダリング)に関しては、前年度に導入した64bit処理のハードウエアおよびソフトウエアを用いた。得られた立体画像から目的の間葉、中耳腔、骨を識別し、時系列に配列した。また、腔の体積算出にあたっては、サーフェスレンダリングにより面の貼付けを行い、ソリッドデータ化した後、3D-CADを用いた。種々の画像データは、大容量ストアレッジに保存した。3.結果:13週〜15.5週までは、鼓膜内面のみに腔が認められた。16.5週〜18週では、それに加え耳管側からの腔(所謂嚢)が観察された。18週以降になると鼓膜内面と耳管から拡張した両腔とがつながり、1つの腔となっていることが観察された。左右の腔の容積はほぼ同じだった。4.結論:中耳腔の形成は、従来、耳管方向からの嚢の侵入によるとされてきたが、本研究により、耳管方向のみならず、鼓膜内面からの融解も起きて両者が交通し形成されることを明らかとした。
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