研究概要 |
体の中にくまなくはりめぐらされた血管ネットワークは発生過程における組織や器官の形成及び生体の恒常性の維持に必須である。Notchシグナル伝達系の多くの構成遺伝子ノックアウトマウスが血管リモデリングの異常を伴って胎生致死となることが知られている。本研究では、組織内の血管網構築を制御する細胞間シグナル分子であるNotchシグナル伝達系の制御下にあるHesr遺伝子を同定し、その機能を発生遺伝学的に解析することによって、血管ネットワークの構築、特にリモデリング過程の分子機構を解明することを目的とした。 発生初期に血管形成の異常が一目瞭然に判別できるyolk sacに焦点を絞り、Hesr1, Hesr2の過剰発現系並びにノックアウトマウスのyolk sac(胎生9.5日目)についてマイクロアレイ解析を行い、遺伝子の発現変化を系統的に整理した。これを元に発現差異のある遺伝子についてYolk sacを用いたin situスクリーニングを行うことにより血管形成に関与すると考えられる遺伝子群を同定した。その結果、Hesr1, Hesr2によって脱リン酸化酵素をコードするDusp4が顕著に抑えられることを見出した。Dusp4は、MAPリン酸化経路のErkを基質にすることが報告されていることから、Erk1/2のリン酸化状態が変化を観察した。Hesr1, Hesr2の過剰発現系でErk1/2のリン酸化が全体にわたって見られることが明らかとなってきた。さらに、Dusp4を心血管系特異的に過剰発現させると、血管のリモデリングの異常が観察された。これらの結果から、Notchシグナル伝達系がHesr1,Hesr2の発現を誘導することによってDusp4を抑制し、Erk1/2のリン酸化状態を規定することによって血管リモデリングを制御している可能性が示唆された。
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