マイスナー小体など皮膚感覚装置のグリア細胞は、複数の薄板突起を異なる軸索終末にのばした特異な形態を示す。私たちはこれまでに、ラット洞毛の動き受容器槍型終末の分離組織標本を用いた実験で、この細胞がATP受容体P2Y_2を発現することを示した。このタイプの受容体のADP・UDPに対する感受性が低い事実と、酵素組織化学でマイスナー小体に強いATPase活性が検出されるとのIde and Saito(1980)の報告は、ATPを介した知覚終末グリア細胞と周囲細胞との相互作用に、この組織酵素が調節的役割を果たす可能性を示唆する。そこで、種々の知覚終末におけるecto-ATPaseの分布を調べるとともに、上記分離標本のCa^<2+>画像解析によって、槍型終末局所に機械刺激を与えたとき放出されるATPに対するグリア応答を、培養液にecto-ATPase阻害剤ARL67156を加えた場合とそうでない場合とで比較した。酵素組織化学では、指腹皮膚マイスナー小体の他、歯根膜ルフィニ終末、洞毛槍型終末のグリア細胞表面にATPase活性が検出され、陽性反応は特に、軸索終末を包むグリアの薄板突起で強かった。分離標本の実験で、正常培養液中の槍型終末の一つに接触刺激を与えると、Ca^<2+>信号が、刺激点から30μm以内の槍型終末を包むグリア薄板間に広がった。信号は、各薄板突起固有の生成焦点に始まり、その薄板内に限局していた。一方、ARL67156を300μM含む培養液中で同様の実験を行なうと、細胞間信号が刺激点から60μm以上離れた終末のグリア薄板にまで及び、各薄板の生成焦点に始まるCa^<2+>濃度上昇は、細胞体に広がった。これらの結果は、知覚神経終末グリア細胞の各薄板突起が、独自のCa^<2+>信号生成焦点の存在とecto-ATPaseによる信号の区域化に基づき局所ATP刺激に独立して応答する機能単位として働くことを示す。
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