研究概要 |
終末分化した細胞以外の多くの細胞は,細胞外の刺激因子により細胞運動(cell migration)を行うことが知られており,移動の方向が刺激因子の濃度勾配によって規定される遊走はケモタキシス(chemotaxis,化学走性)と呼ばれている.申請者らは,マウスの前駆脂肪細胞である3T3-L1細胞を用い,その遊走性と生理的意義を検討した.未分化脂肪細胞はATPに対して正の化学走性を示し,200μMのATP溶液の濃度勾配に従って遊走した.これらの実験は3T3-L1細胞をガラス表面に接着させて行った.この未分化脂肪細胞は他の培養株細胞に比べて非刺激時においても細胞運動が盛んであるが,その動きは起点を中心とした同心円状に分布し,1時間に20μm程度であった.一方,ATPの濃度勾配液においた3T3-L1細胞は濃度勾配に従って1時間に最大で80μmの移動を示した.最終分化を終えた脂肪細胞はガラス表面に強固に接着し,遊走性を観察することはできなかった.次に,生体内でも未分化脂肪細胞が遊走を行うかどうかを調べる手段として,細胞外マトリックスをマウス組織を用いて実験を行った.即ち,マウスの腸管膜を取り出し,その表面に3T3-L1細胞を播いて観察した.腸管膜上の3T3-L1細胞は約1時間のインキュベートで腸管膜表面に接着し,形を変えて細胞移動を開始した.これらの結果から,未分化脂肪細胞は生体内においても遊走性を持ち,オリジナルの脂肪組織塊から派生した細胞が離れた場所に移動して接着し,増殖する可能性があると考えられた.
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