発生初期胚の神経上皮では細胞間で同期したCaオシレーションが起こる。しかし、その同期化機構は不明であった。そこで、発生初期鶏胚の網膜神経上皮組織において細胞内電位記録、及び、Ca蛍光測定を行った結果、神経上皮細胞とニューロンに分化直後の網膜神経節細胞では脱分極刺激を与えても活動電位が起きないこと、また、神経上皮細胞と網膜神経節細胞において自発的なCaオシレーションが細胞間で同期して起こり、このCaオシレーションは細胞内CaストアからのCa放出により生じることを明らかにした。さらに、細胞内Caストアを構成する核膜を電位感受性蛍光色素でラベルし、高速共焦点スキャナと光電子倍増管を用いて時間的に高い分解能で蛍光測定することにより、これまでビデオカメラで記録していたCaストアの周期的な膜電位変化は、高周波数(>200Hz)のバースト状膜電位変動が周期的に生じるものであることを明らかにした。これらの結果からCaオシレーションの細胞間同期化メカニズムについて新規なモデルを提唱した。従来は、ギャップ結合、或は、細胞外伝達物質を介してCaオシレーションが細胞間で同期化すると想定されてきたが、本研究では神経上皮細胞の形態的特徴、即ち、細胞内Caストアを構成する核膜が細胞膜に密着する点を指摘し、これらの膜を介した容量性電流による電気的結合モデルを提唱した。Ca放出に伴う細胞内Caストアの膜電位変動により容量性電流が発生し、細胞間で同期したCaオシレーションが起きると考えられる。さらにこの容量性電流は、シナプス入力が未形成な時期に細胞間で同期したスパイク発射を起こすメカニズムにもなりうることを示唆した。
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