研究概要 |
当該年度は、CFTR-NBDエンジンに関する構造情報およびNBDエンジンの作動原理におけるATPの結合と加水分解の役割についての重要な研究成果が得ることができた。 CFTRは、細菌を用いた発現系が使えないために、大量のCFTRを得ることが出来ず、その高解像度の結晶構造は未だ得られてない。今回、我々は精製したCFTR分子の電子顕微鏡写真から単粒子解析を行なって、野性型CFTRの立体構造を2nmの解像度で解くことに成功し、リン酸化(活性化)されていないCFTRが、膜貫通部位直下に横穴を持つ卵型をした二量体構造をとっていることを、世界で最初に明らかにした[Mio et al,2008]。この論文はNBDエンジン部分を含めたCFTR分子の全体像を水溶液中で捉えることに成功した画期的な業績である。これによりNBDエンジンの動作サイクルに伴う4次構造変化の観測の可能性が開かれた。 NBDエンジンの機能解析については、ATP Binding Pocket(ABP)1にATP、ABP2にpyrophosphateが結合した状態でCFTRチャネルが開口固定されることを明らかにした[Tsai et al,2008]、このことはNBD二量体化にはATPのリン酸基が持つnegative chargeが重要であることを示唆している。また、高濃度(15mM)のMg^<2+>とPPiによって、飽和濃度(2mM)ATPの1/3程度ではあるが、CFTRが活性化されることが確認できた[Tsai et al,2008]。このことにより、NBDエンジンがATP分解エネルギー以外に、水の熱振動エネルギーを利用している可能性が示された。これは従来のATP加水分解エネルギーを中心とした生体エネルギー観に一石を投じる重要な発見である。
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