研究概要 |
視床下部外側野は空腹感を作り出す場所で,MCHニューロンもオレキシンニューロンも空腹感をつくって摂食行動を起こす。この2種類の神経細胞の役割の違いは,前者は本能的,つまり全身の栄養状態に応じて活動が変化するが,後者は精神的,つまり心の状態に応じて活動が変化する,と考えており,その仮説の正しさを証明するために以下の実験を行った。 (1)自由摂食下で食事の状況に応じたMCHニューロンおよびオレキシンニューロンのpCREB発現を調べる。(2)pCREB発現の役割を調べるために両側の視床下部外側野に欠損型ヘルペスmCREBを投与する。mCREBはpCREBのdomonant negative体である。(3)絶食によりMCHニューロンとオレキシンニューロンにpCREBを発現させた状態で、グルコース(栄養価+甘味)もしくはサッカリン(甘味のみで栄養価はない)を飲水させ、pCREB発現の変化を調べる。 その結果,(1)オレキシンニューロンもMCHニューロンも絶食によりpCREBを発現するが、それは雌性のみで、雄性ではMCHニューロンには発現するが、オレキシンニューロンには発現しなかった。自由摂食下で調べたところ、摂食開始直後にpCREBを発現するのはMCHニューロンのみであった。(2)より安定しているレンチウイルスを使うことにした。その結果、GFP投与対照群において、雄性ラットと比較して、雌性ラットでは24時間絶食後の再摂食が過食となり、約120%となったが、mCREB投与により過食分が雄性と同様になった。同時に、摂食量そのものが雌雄ともに約20%低下した。(3)MCHニューロンのpCREBはグルコースによってのみ抑制され、オレキシンニューロンは両者によってpCREB発現が抑制された。 以上の実験より,個体の保存・生得的(生まれ持ったものだが、発達や環境により変容し得る)な空腹感はMCHニューロンが作り、経験依存的・情動的(ストレスや恐怖など)な空腹感はオレキシンニューロンが作る(空腹感の二型性),と言う仮説が支持された。言葉をかえれば、MCHニューロンは個体に至適な程度の空腹感(つまり摂取しないと個体を維持できない量)を作り、オレキシンニューロンは、恐怖や快・不快に影響される空腹感と言うことになる。
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