長時間低酸素曝露の各種循環調節機能への影響を検討するため、低酸素テント内で酸素濃度を変化させ約5時間の曝露実験を健康成人被験者に行った。側頭部に経頭蓋ドップラを装着し中大脳動脈血流速度を連続測定し、また心電図、連続血圧、動脈血酸素飽和度、呼吸炭酸ガスなども測定した。大気呼吸下で15分間以上の座位安静をとったのち、安静時のデータを6分間記録した。その後、酸素濃度を17%もしくは15%(15%は昨年度データ取得済みのものも解析)に下げ、1時間おきに低酸素下の測定を最長曝露5時間まで行った。対照実験として低酸素テント内で20.9%酸素濃度のまま同様の測定を行った。調節機能の評価のため、一心拍毎の中大脳動脈血流速度、血圧、R-R間隔などに対して、周波数解析および伝達関数解析を施した。15%酸素曝露2時間後より呼気終末二酸化炭素濃度が低下し、それに伴い脳血流速度も低下した。超低および低周波数帯の血圧変動が15%曝露直後より上昇する傾向にあり、血管交感神経活動の上昇などが考えられた。脳血流変動は、15%酸素曝露直後から3時間後を除いて対照データに対して有意に大きく、動的脳循環調節機能を示すGainも15%低酸素曝露直後、2及び3時間後において有意に高くなり、動的脳循環調節機能が悪化し脳血流が不安定な状態が持続したと考えられた。低二酸化炭素血症は、脳血流速度を低下させる作用と動的脳循環調節機能を改善する作用があるが、本研究では後者の効果は明確ではなかった。航空機内や2600m程度の高地相当の低酸素への持続曝露により、脳血流量が低下した上、脳循環調節が悪化するため、脳への酸素供給が不安定になる可能性が示唆された。
|