脳出血時に発熱が起こることは臨床的によく知られている。しかし、そのメカニズムは不明であった。初年度では、そのメカニズムを解析するための動物モデルを確立した。そして感染や炎症による発熱と同様に、プロスタグランジン系が関与していることを明らかにした。本年度は脳出血からプロスタグランジン産生にいたる分子、細胞メカニズムを明らかにする。 1. 脳内プロスタグランジンE2(PGE2)の上昇:コラゲナーゼ脳内投与4時間後、および14時間後に視索前野組織、および脳脊髄液を採取し、PGE2含有量を測定した。PGE2量は生理食塩水投与群と比べて有意に高値であった。 2. シクロオキシゲナーゼ2(COX-2)の関与:コラゲナーゼ脳内投与と同時に、選択的シクロオキシゲナーゼー2阻害剤(NS398、10mg/kg)を腹腔内に投与した場合、3時間後から始まる体温上昇は抑制されなかった。一方、コラゲナーゼ脳内投与10時間後にNS398を投与した場合、体温は低下した。またNS398の10時間後投与により視索前野組織および脳脊髄液中のPGE2量は有意に低下した。 3. COX-2発現細胞の同定:コラゲナーゼ投与14時間後の脳ではCOX-2が血管内皮細胞に主として発現していることが、2重免疫組織化学法により明らかとなった。 4. 部位特異性:線条体にコラゲナーゼを投与した場合、出血は起こったが。体温上昇は起こらなかった。 以上の結果から、(1)脳出血による発熱は視索前野付近でのPGE2上昇が原因となる、(2)脳出血の初期の発熱ではCOX-1が、後期の発熱では血管内皮に誘導されたCOX-2がPGE2合成に関与していることが明らかとなった。今後の課題として、脳出血初期にPGE2を産生する細胞を同定すること、脳出血がCOX-2を誘導する機構を明らかにすること、が挙げられる。
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