研究概要 |
・ マウス・ラットにおけるCoCl2(Co)の選択的網膜視細胞障害能を毒性薬理学的に詳細に検討した。Coによる視細胞障害性をHE染色、TUNEL染色にて評価したところ、その細胞死はApoptosisによるものであることが明らかとなった。また経時変化・用量作用性の検討から、もっとも選択性が高く発現される至適投与量はマウスでは10nmol,ラットでは80nmolの眼内投与であることが明らかとなった。以上、Coによる視細胞障害モデルが確立でき、その障害予防・治療の検討に有用であることが明かとなった。 ・ 中型実験動物としてウサギを用いて予試験的に検討した結果、齧歯類と同様なapoptosisを伴う選択的視細胞障害性が観察され、種を超えた応用が可能であることが示唆された。 ・ Co誘発性網膜視細胞障害を機能面から評価する目的で動物用ERG計測システムを用いた網膜電位(ERG)ならびに視覚誘発電位(VEP)測定法の確立を試みた。その結果、マウスにおいて再現性高くERG, VEPを測定出来る条件を確立した。 ・ これらの条件により予試験的にCoをマウスに眼内投与したところ、定性的ではあるが明かな電位の減少が観察出来た。比較として用いたNMDAによる電位変化も検討し、良好な電位減少作用が認められた。Co, NMDAの両電位変化を比較測定することにより、予防薬・治療薬の開発に有用な機能面からの測定系が確率できる。 ・ Coの視細胞障害性機序を明らかにする目的で、細胞内Ca動態の検討をCa試薬を用いて検討したが、現時点では良好な結果は得られていない。 ・ 同様な目的で、Co投与後の網膜組織標本を用いて、細胞のCa動態に影響を与える低分子量HSP20ならびにそのリン酸化体(16位、59位)の量的変動を免疫組織学的に検討したところ、いずれも染色性は観察されなかった。Coの細胞障害性におけるCaの変動に関しては更に検討を続ける。 以上の結果から、Coの選択的視細胞障害モデルが確立出来た。またこの障害性は種を問わず発現することが示唆され、いろんな種での実験動物モデルの作成が可能であり、創薬における有用なツールとなる可能性がある。さらに本モデルは遺伝子変異を伴うモデルと異なり、様々な成長過程でのモデル動物を簡易に作成できる長所を有している。次年度は、作用機序の解明、傷害予防・治療薬の探索、網膜細胞の幹細胞等を用いた再生などさらに検討を加える。
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