研究概要 |
平成19年度の本研究によりマウス・ラットにおけるCoC12(Co)の選択的網膜視細胞障害能を詳細に検討し、その細胞死はapoptosisによるものであることを明らかにするとともに、Coの至適投与量を決定することにより、視細胞障害モデルを確立し、網膜障害予防・治療の検討に有用であることを明かにした。本年度は(1)ラジカル消去剤を用いた細胞死の防御の検討、(2)ERG、VEPによる電気生理学的手法による機能面からの障害性の検討、(3)ES細胞移植による再生治療を試みた。これらは神経節細胞選択的障害性を有すNMDA投与モデルと比較検討した。ERG,VEPの測定には昨年度に引き続き、青木仁美博士(組織器官形成分野特別協力研究員・前博士課程後期学生)の協力を得た。 (1)我々が既に明らかにした脳虚血モデルに対し有効性を示すラジカル消去剤PBNを用い、Co誘発障害モデルでの有効性を組織化学的に検討した。NMDA誘発神経節細胞死はPBNにより有意に、用量依存的に抑制されたが、Coによる障害に対しては改善が認められなかった。このことからCoによる視細胞障害性にはラジカルの関与が否定的である事が示唆された。(2)ERG、VEPへの影響を検討したところ、NMDA同様Co投与によりそれらの発生が顕著に抑制された。なお、NMDA投与によるERGの抑制はラジカル消去剤PBNにより回復が認められたが、Coによる抑制には回復は認められなかった。(3)再生治療への応用の目的でマウスES細胞をCoあるいはNMDA誘発網膜細胞障害モデルに移植し、再生治療を試みた。ES細胞は移植により網膜神経節細胞層に浸潤するような形で生着し、この生着率はNMDA処理後の障害網膜では非処置群に比べ増加した。さらにこの生着細胞の腫瘍化はmethotrexateの併用による制御の可能性が示唆された。一方、Co障害後へのES細胞の移植を試みたところ、有意な生着率の増加は観察されなかった。今後ヒト由来人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いて同様な移植の検討を試みる。
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