1.実験系の立ち上げ シナプスの形態的可塑性を検討するために、ラット海馬ニューロン(神経細胞)を培養し、それに遺伝子導入を行うことで、クラゲ由来の蛍光蛋白質GFPを発現させた。神経細胞の細胞質内を速い速度で拡散するGFPの蛍光により、神経細胞の形態が経時的に観察できるようになった。シナプスの機能・形態連関を考察する為に、樹状突起表面に突出し、シナプス後構造を形作るスパインの形態に着目し、経時的にスパインの形態変化を追った。細胞外液に30mMのカリウムイオンを入れることにより細胞膜の脱分極をおこし、シナプスを刺激した。刺激中はスパインが安静時に見せる速い(数秒に1回のサイクル)反復運動が止まり、スパインが丸く小さくなった。その後、刺激を取り除くとすぐにもとの状態にもどるが、15分程で、今度は安静時よりも大きく広がった形に変形し、シナプスの接着面を拡大させた。 2.ニコチン作用によるスパイン形態の変化の検出 ニコチンを長時間作用させることによるスパインの形態と運動パターンの変化を観察した。(1)で立ち上げた実験系で、GFPで可視化した培養ニューロンを維持しているTyrode's溶液中に、各種濃度のニコチンを添加し、5分ごと、最大2時間にわたるスパイン形態の変化を追った。その結果、通常、ニコチン型アセチルコリン受容体を活性化するのに必要な濃度よりも、比較的高濃度(2-5 microM)のニコチン存在下で、きのこ型をしたスパインの頭部から、細長い形をした、針状の突起が1本から数本伸展する姿が観察された。この変化が起こるまでにかかる時間は一定ではなく、ニコチン添加後、60分から120分の間に、90分をピークとして、確率的に分布した。この形態変化から、シナプスが幼若化し、シナプス結合が弱まる可能性を示唆された。
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