平成20年度開始時までには以下のことを達成している。ラット海馬ニューロン(神経細胞)を培養し、それに蛍光蛋白質GFP遺伝子導入を行うことで、生きた神経細胞の形態を可視化した。この系により、ニコチン(2-5μM)存在下60分-120分で、きのこ型をしたスパインの頭部から、細長い形をした、針状の突起が1本から数本伸展する姿の観察に成功した。平成20年度に入り、上記で観察した形態変化の再現性を確認する為に、条件を様々に変化させながら、ニコチンによるスパイン形態変化の観察を繰り返し、現象の確実性を確認した。また動物種を変え、マウスの培養神経細胞でも同じ現象がおこることを確認することが出来た。次にこの現象が、脳内のニコチニックアセチルコリン受容体を介するメカニズムで起きることを、受容体の特異的拮抗薬メカミラミンならびにMLAで確かめた。ニコチニックアセチルコリン受容体は陽イオンチャンネルであり、ニコチン刺激でイオンの流入が起こり、細胞内カルシウム等のセカンドメッセンジャーが動員される。そこで、培養ニューロンでカルシウム動員を調べる為、カルシウム濃度上昇を検出出来る蛍光色素Fluo-3を取り込ませ、ニコチンへの反応を見る実験系を構築、現在、系の安定性を検討中である。以上の実験は、培養ニユーロンを用いたものであり、シナプスの周囲は培養液に浸された空間である。しかしながら我々の脳内では、シナプスの周囲に空虚な空間は無く、シナプス近傍を星状膠細胞が取り巻いているので、異なる挙動を示す可能性がある。そこで、より生体に近い条件での観察を行うために、脳切片培養法を習得した。今後そこにGFPを発現させ、ニコチンによる形態変化を観察する。観察に必要となる二光子レーザー顕微鏡システムでの実験を行うため、岡崎共同研究施設との打ち合わせを行った。
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