平成20年度は、神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)欠失マウス、nNOS阻害薬(L-VNIO)、peroxynitriteスカベンジャー(MnTBAP)などを用いて、血管における活性酸素依存性MAPキナーゼ活性化に関わるnNOS由来一酸化窒素(NO)の役割を詳細に検討した。平常時には、nNOS由来NOはラジカルスカベンジャーとして血管壁での活性酸素産生および血管MAPキナーゼ活性化には抑制的に働いていており、特にnNOS欠失マウスでは、血管MAPキナーゼのリン酸化体量は有意に多いものであった。一方でアンジオテンシンII(AngII)暴露時には、NADPHオキシダーゼが関わる活性酸素産生系を強力に誘導されることから、nNOS由来Noとの反応によりperoxynitriteの産生増強が起り、これが逆に血管MAPキナーゼの酸化ストレス依存性の活性化を引き起こしていることが判明した。 また、心筋虚血再潅流障害に与える虚血プレコンディショニング効果を、nNOS欠失マウスと野生型マウスとの比較、あるいはL-VNIO、MnTBAP処置により、本メカニズムに関わるnNOS由来NOの役割を併せて検討した。心筋虚血再潅流障害はnNOS欠失マウスあるいはMnTBAP前処置により軽減されたが、一方で虚血プレコンディショニング効果はnNOS欠失マウスで消失していた。 本年度の研究成果は、活性酸素依存性の心血管MAPキナーゼ活性化における平常時とAngII刺激時のNOの相反する2面性を明らかとし、そのNO産生を担うのは血管壁あるいは心筋での神経型NOSであることを示したことである。
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