慢性骨髄性白血病発癌原因分子BCR/ABLは、恒常的に活性化された非受容体型チロシンキナーゼであり、細胞の増殖を促進、アポトーシスを抑制する。本研究では、分子シャペロンによるBCR/ABLチロシンキナーゼのキナーゼ領域依存性分解制御について検討し、以下の結果を得た。 1.構成型熱ショックタンパク質(Hsc)70は、BCR/ABLタンパク質合成直後にフォールディングを促進してBCR/ABLを安定化する。さらに熱ショックタンパク質(Hsp)90-cdc37シャペロン系が、BCR/ABLタンパク質のリン酸化に関与し、BCR/ABLキナーゼの成熟を促進する。 2.ユビキチンリガーゼであるc-Cblは、成熟したBCR/ABLを認識し、ユビキチン化を促進してBCR/ABLタンパク質をリソソームやプロテアソームで分解する。 3.Hsp90阻害薬は、Hsp90-cdc37シャペロン系を阻害することにより、BCR/ABLタンパク質のキナーゼ成熟過程を阻害して分解を促進する。Hsp90阻害薬は、イマチニブ耐性変異体の分解も促進する。 4.ユビキチンリガーゼであるCHIPは、未成熟なBCR/ABLタンパク質を認識して、ユビキチン化し、プロテアソームでの分解を促進する。 5.イマチニブは、BCR/ABLキナーゼ領域に結合することにより、Hsp90-cdc37依存性のBCR-ABL蛋白成熟過程を阻害し、蛋白質を安定化する。イマチニブによる蛋白質の安定化は、薬剤耐性機序の一つであることが示唆される。 以上の成果は、発癌分子チロシンキナーゼの分解を促進する薬剤(Hsp90阻害薬等)の作用機序を理解する上で重要な意義を持つと考える。
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