アデノシンやATPが細胞外シグナル分子として様々な生理学的機能を持つことはよく知られている。本研究ではまず、自然発症発高血圧ラット(SHR)などの病態動物の尾動脈において、血管交感神経終末部のアデノシン・ATP受容体が機能不全を起こしていることを見いだした。さらに、このような変化が血管平滑筋のアデノシン受容体でも発現していること、そして生活習慣病モデル動物(SHR.Cg-Leprcp/NDmcrats)においでも発現していることを見いだした。そこで次に、SHRにおけるアデクシン受容体の変化の機序について、平滑筋弛緩反応を指標に詳細に検討した。その結果、(1)尾動脈、胸部大動脈、頸動脈において、アデノシン受容体刺激による弛緩反応はSHRで減弱していることを明らかにした。次いで、(2)SHRの腸間膜動脈におけるアデノシン受容体刺激による弛緩反応はWKYのそれと変わらないことから、アデノシン受容体の機能不全には部位差のあるごとを見いだした。さらに、(3)アデノシン受容体刺激による血管弛緩反応の減弱は、アデニル酸シクラーゼやPKAなど、cAMP軽路を含む細胞内シグナル伝達機構の機能低下ではないことを観察した。さらにアデノシン受容体と同じ細胞内シグナル経路をもつβ_2受容体の刺激による弛緩反応に変化が認められないことを明らかにした。以上の結果より、アデノシン受容体の機能不全は、平滑筋細胞におけるアデノシン受容体自体の機能低下によるものであることが示唆された。このような変化は神経終末部のアデノシン受容体にも関連していることが推察される。今後、この点を追求するとともに、虚血状態下での交感神経機能に対するアデノシン・ATP受容体の保護作用を、病態と関連させて解明する必要があると思われる。
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