低分子ストレスタンパク質ファミリーに属するα-β-クリスタリン(CryAB)の120番目アルギニン→グリシン点変異(R120G)はデスミン心筋症の原因である。この疾患は、細胞内にデスミンおよびCryABを含む不溶性凝集体を形成する特徴を持ち、アミロイド関連疾患と考えられる。また、デスミン心筋症の病態には不溶性凝集体が形成される際に発生する可溶性中間体(oligomer)が深く関与している。そのため、oligomerの形成を阻害することが出来れば、デスミン心筋症を含むアミロイド関連疾患に対する新しい治療法を確立することが出来る可能性が考えられる。 HSP22およびHSP25などの低分子ストレスタンパク質群は、HSP20相同性ドメイン内でそのアミノ酸配列の相同性を示す。我々は、精製タンパク質を用いた評価系および心筋細胞を用いた評価系を用いて、HSP25およびHSP22タンパク質が点変異CryABのoligomer形成を阻害することを明らかにした。現在、我々はinvitroで確認されたHSP22の心筋症に対する効果を、in vivoレ'ベルで検討している。心筋特異的導入型トランスジェニック(TG)システムを用いて、HSP22を心筋特異的に発現しているマウスを作製した。作製されたTGマウスでは、HSP22の心筋レベルは約3倍に増加した。このTGマウスは心筋重量、心機能、および生存率においてノントランスジェニックマウス(NTG)と差は認められなかった。このことは、HSP22が過剰に発現していても、心筋細胞に悪影響を及ぼさない事を意味する。次に、HSP22のデスミン心筋症に対する効果を検討するために、HSP22TGマウスとCryAB RI20GTGマウスを掛け合わせた。HSP22を発現しているCryAB R120Gマウスでは、CryAB RI20Gによって引き起こされる細胞内不溶性凝集体の蓄積が抑制され、oligomerの形成も阻害されていた。さらに、心筋の重量増大は軽減し、心機能および生存曲線も改善した。これらの結果は、心筋のHSP22量を増加させることにより、心筋症病態を治療できることを意味する。
|