低分子ストレスタンパク質(HSP)ファミリーに属するHSPB5(別名α-β-クリスタリン)の点変異(R120G)はデスミン心筋症(DRM)の原因である。この疾患は、細胞内にデスミンおよびHSPB5を含む不溶性凝集体を形成する特徴を持ち、HSPB5 R120Gタンパクを心筋で過剰発現しているマウスで病態が再現される。我々は、すでにこの細胞内凝集体が細胞核周辺に蓄積し、アグレソームを形成すること、およびそのアグレゾームが可溶性アミロイドオリゴマー(Oli)を含んでいることを明らかとした。この事実は、OliがDRM病態に深く関わっている事を示唆する。本申請研究で我々は、低分子HSPファミリーの一つであるHSPB8(別名HSP22)およびHSPB1(別名HSP25)などの低分子HSP群が、これらが持つシャペロン様作用によって、標的タンパク質の凝集および変性を防ぎ、DRMに有用か否かをin vitroおよびin vivoで検討した。 In vitro実験の結果、精製された点変異HSPB5タンパク質は自己重合し、Oliを形成した。また、HSPB8およびHSPB1タンパク質はこの点変異HSPB5のOli形成を直接的に阻害した。次に、in vivoにおいて、HSP発現誘導剤として知られているゲラニルゲラニルアセトン(GGA)の処置により、HSPB8およびHSPB1の発現誘導を亢進させ、これら誘導されたHSP群の効果によって、DRMが治療可能か否かをDRMマウスモデルを用いて検討した。その結果、GGAは心筋症マウスの心筋で強力にHSPB8およびHSPB1の発現誘導を亢進し、心肥大や心筋線維症などの心筋症病態を抑制した。この結果は、GGAがHSPB8やHSPB1などの低分子HSPの発現誘導を亢進し、その結果心筋症病態を軽減していることを示唆する。本申請研究の結果、心筋細胞内の低分子HSP量を増加させることにより、DRM病態が治療可能であることが分かった。
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