癌抑制遺伝子産物RBタンパク質(pRB)は、細胞増殖を正に制御しているE2F依存性の遺伝子発現を抑制する。最近pRBは細胞周期進行の抑制に働くのみならず、DNA複製制御因子との結合を介する複製反応阻害や、DNAダメージで誘導される細胞周期停止にも関与することが分かってきた。またDNAおよび染色体ヒストンのメチル化を介し、遺伝子発現を負に制御すると考えられているjumonjiは、pRBと結合することが知られている。これらはpRBと染色体関連因子との相互作用が、適切な細胞機能の維持に重要であることを意味している。我々はpRBおよびpRB結合蛋白質のユビキチン様修飾とクロマチン制御との関連に注目し、次の2項目を目的として研究を進めた。1)RBタンパク質のユビキチン(様)修飾がDNA複製・修復関連因子との相互作用に関与し、複製・修復の過程を制御もしくは撹乱する可能性を検証する。2)pRBと結合する染色体制御関連因子のユビキチン化による細胞周期依存的な量的制御機構を解明し、がん化との関連を検証する。 本研究期間内では以下のような成果を得た。 (1) 2005年に我々はpRBがMdm2によってユビキチン化され、プロテアソーム依存的分解を受けることを報告した(Uchida et al. EMBO J.)。本研究ではpRBが新規の修飾を受けることにより、pRB-E2F結合が抑制されることを見出した。この修飾はユビキチン様修飾因子の一つによるものであった。 (2) Mdm2はユビキチン化以外の働きによって、pRBの染色体への結合を制御している可能性が示された。 (3) jumonjiはMdm2によってユビキチン化されることが分かった。しかし、そのユビキチン化とjumonjiの安定性制御との関連性を示す結果は得られず、Mdm2によるjumonjiのユビキチン化は蛋白質分解以外のシグナルとなる可能性があると推測された。細胞内のjumonjiを著しく減少させると、DNA合成時期にある細胞が蓄積し、正常な細胞増殖が行われない可能性が示された。
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