研究概要 |
がんの発症、悪性化の分子メカニズムを解明し,がんを克服するには,がんの原因遺伝子の効率的な同定と機能解析が重要となる。申請者は,レトロゥイルス挿入変異を用いて,マウスに発症した血液腫瘍から,発がんに重要な共通挿入部位の遺伝子を網羅的に同定してきた。しかし従来法では,ウイルス挿入で発現が活性化されるがん遺伝子が主に単離され,がん抑制遺伝子の候補はほぼ発見できなかった。そこで,分裂組み換えを頻発する変異マウス(ブルーム(Blm)遺伝子変異マウス)を用いて挿入変異を行ない,両アリルへの変異導入効率を高めて,がん抑制遺伝子を優先的に単離する方法の構築を試みた。 まず,Blm変異マウスは,挿入変異によって,野生型マウスより早期に血液腫瘍を発症することがわかった。腫瘍細胞ゲノムのウイルス挿入部位の解析から,新たにがん関連遺伝子を多数同定し,特にウイルスが翻訳領域の内部に挿入している遺伝子(がん抑制遺伝子の候補)を十数個単離することに成功した。この中には,RB関連遺伝子,CDK阻害因子,ファンコニ貧血原因遺伝子など既知の有力な候補が含まれており,目的の実験系の樹立が確認された。特に新しく同定された候補の機能解析を中心に実験を進行しており,これまでにJumonji(JmjC)ドメインという共通構造をもつBCIS1(Fbxl10),BCIS2(Jmjd5)遺伝子産物がDNA修復に関与する可能性を明らかにした。Jmjcドメインは,ヒストン脱メチル化酵素の重要なモチーフであることが最近報告されており,ヒストンのメチル化制御とがんとの関連性に注目して解析を進めている。現在,結合するタンパク質群を同定することにより,それぞれの遺伝子産物の作用メカニズムが明らかになりつつある。また,Jmjd5遺伝子については,遺伝子改変マウスを作製しており,個体レベルでの機能も解析している。
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