Wntは分子量約4万の分泌蛋白質である。ヒトでは、Wntは19種類のホモログからなるファミリーを形成しており、それぞれ異なった機能を担うと考えられている。例えばノックアウトマウスの解析から、Wnt-3aは海馬や神経管の形成に、Wnt-4は腎臓形成に、Wnt-7aは小脳顆粒細胞のシナプス形成に関わることが示唆されている。Wntのシグナルが細胞膜上の受容体Frizzled/LRP複合体に結合するとそのシグナルは少なくとも3つの経路に分かれて細胞内に伝達される。すなわち、β-カテニン経路、PCP経路、Ca経路である。β-カテニンでは、Wntのシグナルは受容体から細胞内のDvlを介して蛋白質リン酸化酵素GSK3を抑制し、β-カテニンの安定化、転写因子TCFによる遺伝子発現促進を行う。PCP経路は低分子量G蛋白質、JNK、Rhoキナーゼを介して細胞骨格を制御する。Ca経路は細胞内のカルシウムを動員して、PKC、CaMキナーゼを活性化する。それぞれのWntとどのFrizzled受容体が結合してシグナルを伝えるか、あるいはどの経路が刺激されて亢進するかについても、不明な部分が多い。本年度は、Wnt-7aの細胞内シグナル伝達機構を明らかにするため、細胞内でWnt-7aの作用を仲介するDvlに着目して、Dvlの結合蛋白質を検索し、その候補としてHECT型ユビキチンリガーゼを見出した。現在、DvlとHECT型ユビキチンリガーゼが生理的な条件で複合体を形成するか否かを解析している段階である。
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