自己骨髄幹細胞は心筋細胞、肝細胞など様々な細胞に分化できるといった多分化能を有し、再生治療の有力な細胞ソースである。しかし、加齢、糖尿病や高脂血症などによる骨髄幹細胞の機能低下が報告されている。このように機能が低下した自己骨髄幹細胞を用いた場合には臓器再生治療効果が損なわれると考えられるので、機能回復が必要である。骨髄幹細胞の機能低下の原因としては酸化ストレス亢進などが挙げられるが、その詳細な分子機序は不明である。そこで、本研究では、糖尿病や高脂血症下での骨髄細胞の機能障害に関する分子機序を解明し、抗酸化治療によって骨髄幹細胞の機能が回復するか否かを検討する。 本年度は糖尿病、高脂血症による骨髄幹細胞の機能障害とその分子機序を明らかにすることを目的とした。糖尿病、高脂血症を有するII型糖尿病モデルマウス(C57BLKS/J Iar- +Leprdb/+Leprdb)と健常マウス(C57BLKS/J Iar-m+/+Leprdb)から、骨髄単核球細胞を採集し比較検討した。糖尿病マウスの骨髄細胞中のFlk-1^+/CD34^+細胞(内皮前駆細胞)率は、健常マウスよりも低かった(p<0.01)。また、健常マウスと比較して、糖尿病マウスの骨髄細胞では細胞内活性酸素量が高値を示し(培養3日後:p<0.01)、内皮細胞への分化能が低下していた(培養7日後:p<0.01)。さらに、1)炎症性分子、2)接着分子、3)細胞周期調節分子、4)幹細胞の維持に関与する分子に焦点をあてたマイクロアレイを用いて、CD117^+骨髄幹細胞の遺伝子発現プロファイルを比較すると、糖尿病による発現の変化が認められた。 以上の結果から、糖尿病マウスの骨髄細胞では機能障害が生じており、その原因として酸化ストレスの関与が示唆された。また、その分子機序の一部が明らかとなった。
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