真核生物にとり外的、内的要因によりDNAに受けた損傷を修復することは生存に必須である。DNAを修復する際にはその原料となるデオキシリボヌクレオチド(dNTPs)を過不足なく供給されることが必要となる。下等真核生物である出芽酵母とは異なり哺乳動物細胞ではDNAに損傷を受けた後も細胞内に顕著なdNTPsの増加は認められないため、修復箇所近傍の局所において効率的にdNTPsが産生されていることが考えられる。この点を明らかにするためdNTPs合成の律速酵素であるリボヌクレオチドレダクターゼ(RNR)の局在を支配する分子の探索をyeast two hybrid法により行い、ヒストンアセチルトランスフェラーゼの一つTip60を同定した。RNRはその触媒サブユニットR1がTip60と直接作用しTip60依存的にDNA損傷箇所にリクルートされることを、クロマチン免疫沈降法及び免疫染色法を用いて明らかにした。この複合体形成をR1変異体を用いて阻害するとRNRとしての酵素活性は変わらないのにDNA修復に異常をきたすことがわかった。この傾向はdNTPsプールの少ない細胞周期のG1期に顕著であり、生体を構成する静止細胞においてTip60依存的RNRの損傷箇所への集積が重要であることが示唆される。哺乳動物に発達したこの機構は細胞全体のdNTPs量を厳密に保ちつつ効率的にDNA損傷を修復することを可能にし染色体への変異の誘発を防いでいるものと考えられる。
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