赤血球は日数を重ねるとともに変形能が低下し脾洞内皮細胞の間隙を通過できなくなり、マクロファージに貧食されることで寿命を全うする。本研究は、「核」をもたないことから「アポトーシス」は起こらない赤血球の寿命がほぼ正確に120日に定められている要因として、赤血球変形能の維持を担う膜骨格蛋白質スペクトリンの時間依存的、非可逆的な糖化修飾(AGE化)が赤血球寿命を定めているとの独自の仮説を検証することを目的としている。この仮説は同一環境にあるヘモグロビンが糖化修飾されるという事実により支持されると考えた。 本年度はまず、スペクトリン分子の存在状態(赤血球中、ゴースト中または精製された溶液中)および用いた糖の違いによる糖化の有無とAGEの種類について検討した。いずれの存在状態でも、リボース(五単糖)の方がグルコース(六単糖)より速やかかつ強くAGE化(ペントシジン化)を引き起こした。赤血球におけるリボースによるペントシジン化はグルコースの共存で抑制された。さらにグルコースの共存の効果はNaFで解糖を阻止すると認められなくなり、グルコースが単に共存することが必要であるのではなく、代謝が進行し細胞内ATP濃度を維持することが重要であることが明らかとなった。一方、スペクトリンのペントシジン化の程度に応じて赤血球膜の変形能が低下したことから、スペクトリン分子内架橋(Lys-Arg)により分子自身の伸展性が低下したと考えられた。現在、スペクトリンの分子内架橋部位の同定を進めるとともに、ATPによる糖化抑制機序と老化に伴うATP減少の意義について検討している。
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