研究概要 |
生体フロントラインの防御機能の全容を明らかにして,その機能破綻により発症するがん,炎症性腸疾患などに対する新しい予防,診断と治療法開発へ繋げる事を目的として,平成19年度は3項目について下記の成果を上げた。 1.異物排出蛋白質ABCB1の機能と分子疫学解析:ABCB1欠損マウスを用いた解析から,ABCB1が癌の出来やすさに関与するという結果を得ていたが,本研究ではこれをさらにヒトに発展させ,小児急性リンパ性白血病の患者157人を対象にして遺伝子多型との相関解析を行った。その結果,-2352G>A,3435C>T,およびハプロタイプのそれぞれが,ABCB1発現量および白血病の発症と有意に相関する(それぞれ,p=0.04,0.006,0.048)ことを明らかにした。 2.相互作用タンパク質の同定と機能修飾の解明:生体膜上微細環境において,ABC膜輸送体と協調して細胞死や組織構築を実行しているタンパク質群を同定、単離するために,細胞膜上での相互作用を検出できるスプリット、ユビキチン法の導入を計画し,ABCB1およびABCC2cDNAにユビキチンC端cDNAを結合してbait構築体を作製した。また,ユビキチンN端cDNAを結合させた肝臓由来prey cDNAライブラリーの準備が完了した。 3,マウスモデルを用いた化学予防,治療研究:ABCB1の代表的基質であるベラパミルをABCB1阻害薬として餌に練りこみ,経口により一年間継続投与した後腸内に形成された腫瘍数とサイズを計測した結果,濃度に応じて35〜74%の腸管腫瘍形成阻害が実現でき,ABCB1阻害薬による化学予防の現実性を示した。
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