研究目的:最近、我々はIL-1受容体ファミリーに属しているヒト分泌型ST2タンパク質(以下ST2)が単球系白血病細胞由来のTHP-1細胞で、LPS刺激後のTLR4由来のシグナル伝達におけるIκBαの分解を抑制することで、NF-κBの核内移行を抑え、炎症性サイトカインの遺伝子発現を制御していることを報告した。本年度は、正常細胞を用いてST2のリガンドとしての機能について検討を行った。 検討内容:単球は、Lipopolysaccharide(LPS)やTNF-αで刺激を加えることにより骨髄系樹状細胞に分化誘導される。そこで、ヒト末梢血由来単球を用いて、樹状細胞の分化誘導系におけるST2の作用機序について検討した。ST2はHEK293T細胞でタグ付き組換えタンパクとして発現させ、精製した。まず、フローサイトメトリーを用いて、ST2が単球に結合することを確認した。次いで、ST2の存在下でLPSを作用させたところ、CD83、86、206などの樹状細胞マーカーの発現が抑制された。また、形態上も樹状細胞に分化しないことも確認した。さらに、LPS刺激後の炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6、IL-1β)の産生がST2の存在下では抑制された。樹状細胞の分化誘導の際に、ST2によりNF-κBの炎症性サイトカイン遺伝子のプロモーターへの結合を、ゲルシフト法により検討したところ結合阻害が見られた。 結果:本年度の結果より、ST2は末梢血由来の単球において、LPS刺激後の分化誘導の際に炎症性サイトカインの産生を抑制し、分化を抑制する可能性が示唆された。この結果より正常細胞に対しても、ST2がリガンドとしての機能をもつことが示され、今後の検討においてもこの系を用いることが可能になった。
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