ピロリ菌が分泌する病原因子、TNF-α inducing protein(Tipα)は、胃粘膜上皮細胞においてNF-κBを活性化し、TNF-αなどの炎症性サイトカインやケモカインの遺伝子発現を誘導して、がん化を促進する。胃がん患者から分離したピロリ菌は、萎縮性胃炎のピロリ菌に比べ、Tipαを大量に分泌することを見出した。この結果は、Tipαがヒトの胃がん発症に重要な役割を果たしていることを示唆した。Tipαタンパク質を胃がん細胞株に処理すると、細胞膜に結合し、温度依存性に細胞内に取り込まれた。Tipαの細胞内局在を共焦点顕微鏡で観察したところ、細胞質だけでなく核にも存在することを見出した。さらにTipαが核に存在することは細胞分画によって確認した。一方、Tipαの2つのCys残基を含む6アミノ酸を欠失したdel-Tipαは2量体を形成せず、活性がない。del-Tipαは細胞および核内に取り込まれないことから、細胞内への取り込みがTipαの活性に重要であると考えられる。さらに、表面プラズモン解析Biacoreによって、TipαがDNAオリゴマーに結合することを見出した。TipαはDNA結合活性を持つ始めてのピロリ菌の病原因子である。
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