ピロリ菌が分泌する病原因子TNF-α inducing protein(Tipα)は、胃がん細胞においてNF-κBを活性化してTNF-αなどの炎症性サイトカインやケモカインを強く誘導し、がん化を促進する因子である。これまで、Tipαは胃がん細胞に結合し細胞内に取り込まれ、その一部は核まで到達することを明らかにしてきた。今回、FLAG抗体を用いたpull-down法によってTipα-FLAGに特異的に結合して、不活性型のdel-Tipα-FLAGに結合しないポリペプチドを解析した。その結果、88と40kDaのポリペプチドはヌクレオリンとそのフラグメントであることをLC-MS解析とWestern blottingによって明らかにした。次に、TipαはヌクレオリンのC末フラグメントに直接結合することをin vitroで確認した。すなわちヌクレオリンはTipαの特異的結合タンパク質であることを初めて明らかにした。ヌクレオリンは核小体のタンパク質であるが、がん細胞などでは細胞表面や細胞質に局在することが報告されている。胃がん細胞株MGT-40の細胞膜にもヌクレオリンは局在していたので、ヌクレオリンはTipαのレセプターであり、Tipαとヌクレオリンは複合体としての細胞内に取り込こまれ、核内へ移行していると考えられる。すなわち、ヌクレオリンは、Tipαのシャトリングタンパク質であり、ヌクレオリンを介したメンブラントラフィック機構が示唆された。
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