癌のなかでもスキルス型癌は間質組織への浸潤性がきわめて高く、隣接した臓器、組織に播種する特徴を持ち、難治性である。Ephrin-B1はスキルス型癌における癌の浸潤や播種の形成を促進する作用をもっているため、その信号経路を遮断することによりスキルス型癌の治療に応用しようとしている。これまでの実験経緯から、ひとつはephrin-B1のC末を介した信号経路が癌の浸潤性を左右していたため、その経路を抑制するためにephrin-B1のC末の合成ペプチドを作製した。HIVウイルス由来の細胞膜透過性シグナルを付加したephrin-B1のC末ペプチドは、効率よく培養細胞内にとりこまれ、申請者らが見出したephrin-B1のC末部位とDishevelledアダプター蛋白質との結合をほぼ完全に阻害した。また同ペプチドは、ephrin-B1のC末を介したArflの活性化経路を阻害するによりメタロプロテアーゼの分泌も抑制し、癌細胞のin vitroでの浸潤を低下させた。それらに加え、マウス腹腔内に投与したスキルス癌細胞の腹膜播種に対しても、腫瘍細胞の移植後に同ペプチドを連続的に腹腔内に投与することで抑制する効果が認められた。これらのことにより、ephrin-B1のC末ペプチドの構造と類似した化合物などが、実際の治療に有用であることが示された。
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