我々は、これまでに、DNA障害・複製チェックポイントの中心分子であるChk1が、分裂期において、サイクリン依存性キナーゼ(Cdk)1によって、そのSer286およびSer301がリン酸化されることを報告してきた。今年度、Chk1のSer301に対する抗リン酸化(ペプチド)抗体を作製し、その解析を行った。その結果、このリン酸化反応は、分裂前期から中期にかけて引き起こされ、分裂後期以降は、減弱することが判明した。興味深いことに、核膜が崩壊する前の分裂前期においては、このリン酸化反応は染色体凝縮が弱い(分裂前期の初期と思われる)時点では核内および核外で認められるにもかかわらず、染色体の凝縮が進むにつれて、主に、核外において強く認められるようになることが判明した。そこで、より詳細にこのリン酸化反応の生理的意義を解析するため、Chk1野生型(WT)および2つのリン酸化部位をアラニンに置換したChk1変異体(S286A/S301A)をテトラサイクリン誘導性に発現するHeLa細胞を確立した。これらの細胞を用いて分裂前期における誘導性蛋白質の局在を調べたところ、WTは核内および核外に局在するにもかかわらず、S286A/S301Aはほとんど核内に局在することが判明した。また、S286A/S301Aは、WTに比べて、分裂期への進行が遅れることが判明した。以上の結果より、Cdk1によるChk1リン酸化反応は、Chk1の核外移行を通して、分裂期への進行過程を制御している可能性が高いと考えられる。今後、細胞ががん化していく局面でこのリン酸化反応がどのように変化するかについて、更なる解析を加える予定である。
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