ES細胞の分化や未分化状態に関与する遺伝子の動態は、初期胚が発生・分化してゆく過程を同一ではなくとも反映しているものと考えられ、これらの遺伝子について解析することは、生体における発生・分化過程を理解する上で有用な情報をもたらすものと期待される。未分化ES細胞に特異的に発現する遺伝子をin silicoスクリーニングにより選別し、得られてきた遺伝子の1つであるCes5についてノックアウトES細胞を作製し、これを用いてノックアウトマウスを作製した。交配実験の結果、ホモノックアウトのメスは不妊を示し、その原因が初期胚における発生の障害が考えられ、解析を進めた。 1、核膜消失に向けた雌雄の前核の移動が見られるか、蛍光顕微鏡観察によって検討した。野生型のオスと交配したホモノックアウトメス由来の受精卵の細胞質の中央に2個の核が集まっている像が観察された。さらに、濃縮した染色体が細胞質の中央に集合している像を示す受精卵も一部観察され、前核の移動や染色体の濃縮は起こっていることが確認された。 2、前核の移動や染色体の濃縮などを観察する過程において、正常な生殖能力を示すヘテロノックアウトメス由来の胚と、発生段階の進行時間経過を比較すると、ホモノックアウトメス由来の胚ではその進行が遅延していた。 3、Ces5遺伝子の機能を解析する上で重要と考えれられる蛋白質の局在部位について、卵子や初期胚のパラフィン切片を作製し、免疫染色による検討を行った。その結果、Ces5蛋白質は細胞質のほぼ全域に存在するが、やや不均一な染色像が得られ、蛋白質の偏りや細胞内構造物との関連などが考えられた。
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