中心体は、細胞周期と同調してDNA合成期(S期)に複製するが、中心体複製は、DNA複製と同様、一細胞周期においてただ一度だけ起こるように厳密にコントロールされている。中心体複製機構がみだれ、一細胞周期において複数回中心体複製が起きると、分裂期に多極性の紡錘体極が形成されることになり、染色体が不均等に分配され、多くは分裂死を起こすが、この中から悪性度の高い細胞が出現してくる可能性がある。実際、多くのヒト癌細胞で、中心体の過剰複製が観察されている。 現在、中心体の複製開始機構については次第に明らかになってきているが、中心体の再複製抑制機構についてはまったくわかっていない。申請者はこれまで中心体の再複製を抑制する遺伝子を細胞工学的に探索し、その責任遺伝子がヒト第8番染色体に座位していることを明らかにしてきた。そこで本研究では、radiation hybrid mapping法によって責任遺伝子を限局・単離し、その生物活性を明らかにした。ヒト第8番染色体のさまざまな断片を有するRadiation hybrid細胞を用いて中心体の再複製を抑制する遺伝子座位を調べた結果、ヒト第8番染色体短腕(8p23)の領域に責任遺伝子があることをつきとめ、バイオインフォマティクスを駆使して、3つの候補遺伝子を絞り込んだ。 次にこの3つの候補遺伝子のcDNAを順次ホスト細胞に再導入し、中心体過剰複製を誘発させた。その結果、候補遺伝子のcDNAのひとつが、中心体の過剰複製を抑制する活性を持つことがわかった。 現在、その遺伝子産物がどのようなメカニズムで中心体の過剰複製を抑制しているのかを検討しているところである。
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